「音楽でメシを食う」ということ(その1)
レッスンを受けている人の中にはプロを目指して頑張っている人もいると思います。
そういう方へ向けたちょっと辛口コラムです。夢が無くなる話も出てきますので覚悟して読んでください(笑)。
■プロの定義
世の中には弁護士や医者のようにきちんとした教育を受けて、厳しい試験をパスして資格を取得しなければその道のプロとして認められない職業があります。
ですが音楽家の場合はそういった明確な定義はありません。
極端な話、名刺に「『プロミュージシャン』と刷ってプロを名乗れば今日からあなたもプロミュージシャン」と言えないこともありません。
もちろんみなさんはそういう“自称”プロではなく、音楽だけで生活している本当のプロミュージシャンを目指しているのでしょうが、音楽のプロというのはそれくらいあいまいなものだということは覚えておいてください。
■音楽の仕事
音楽の仕事と一口に言ってもその種類は多岐に渡ります。
みなさんは演奏をして対価をもらうミュージシャン(演奏家)が一番イメージがしやすいと思いますが他にもいろいろな仕事があります。
・作曲家
・作詞家
・編曲家(アレンジャー)
・レコーディングエンジニア
・プロデューサー、ディレクター
・マニピュレーター
・写譜屋
・音楽講師
ざっと挙げてもこれくらいはあります(他にももっとありますが)。
■かつての分業制度
私がプロを目指してドラムの練習に明け暮れていた頃(1970~1980年代)はまだほぼ完全分業の世界でした。
作曲家の先生は作曲をして、編曲家の先生がそれをアンサンブルに仕上げる。
作詞家の先生が詞を付ける。
演奏家はスタジオに呼ばれて演奏をし、スタジオではエンジニアが録音する。
プロデューサーが全体の取りまとめをし、ディレクターが曲のディレクションをする。
もちろん当時から作曲家兼アレンジャーとかプロデューサー兼エンジニアという人もいましたが、今よりは確実に分業制度が確立していました。
■分業制度の崩壊
さて現在はどうでしょう。分業制度は一部残ってはいるもののほとんど無くなってしまいました。
その一番の大きな原因が「コンピュータの台頭」です。
コンピュータの登場は各業界に大きなインパクトをもたらしましたが音楽業界にも劇的な変化を与えました。
まず生演奏がどんどんコンピュータの打ち込みに置き換えられ、さらにデジタルレコーディングシステムの発達によりそれまで本格的なレコーディングスタジオでしか録音出来なかったような音が自宅で録れるようになりました。
その結果一つの曲を作り上げるために大掛かりな設備や大人数の専門家は必要なくなりました。
代わりに一人で二役どころか三役も四役もこなすマルチな人達が活躍するようになってきました。
知り合いのアレンジャーがまさにそうなのですが...
曲を書き(作曲家)
アレンジをし(編曲家)
打ち込みをやり(マニピュレーター)
ギターを弾き(演奏家)
録音をし(レコーディングエンジニア)
ミックスダウンをし(レコーディングエンジニア)
マスタリングをする(マスタリングエンジニア)
という状況です。
※トータルのプロデュースやディレクションもしてます
現在は誰もが手軽に自由に音楽を作れる時代と言えます。素晴らしいことです。ですがその一方で各分野で専門家として活躍していた人達が職を失うという厳しい現実も生まれています。
(その2へつづく)