好きなドラマー(2) ~神保彰(カシオペア)~
■好きになったきっかけ
中三の時に初めてフュージョンという音楽ジャンルに触れたのがカシオペアだった。その時聴いたのは前任の佐々木隆さんのバージョンの「ASAYAKE」だったが、とにかく自分にとってはものすごい衝撃だった。
それまで聴いていたロックはほとんどどんな曲でも何回か聴けばどんなプレイをしているのかが分かったが、カシオペアだけはドラマーが何をやっているのかさっぱり分からなかった。
ただ元々好奇心旺盛だったこともありそこでメゲることは一切なく、むしろ「このジャンル、絶対やってみたい!」とその時に強く思った。
そして当時創刊されたばかりのドラムマガジンに、ちょうどASAYAKEのドラム譜が載っていたのでそれで勉強して少しずつ神保さんの奏法の解析などをしていった。
そこからはカシオペアのアルバムを買い漁ってはコピーするという日が続き、少しずつ神保さんの得意フレーズなどを自分のプレイに取り込んでいった。
神保さんのプレイはリズムパターンもフィルもソロも本当に何から何までカッコ良かったので夢中になってコピーしたことを覚えている。
※高校一年生の時は365日朝食のBGMがカシオペアの「Mint Jams」だった(笑)
■プレイ分析 ~グルーヴ編~
カシオペア時代のグルーヴは極めてタイト。正確無比とはこのことだろう。以前はその点を揶揄する意見もあったが、今時そんなことを言う人はいない。世界中から称賛を浴びているスーパードラマーである。
現在のグルーヴはカシオペア時代に比べるとより人間味が増していて「機械のように正確」という感じではなくなっている。それは神保さんがラテン音楽に傾倒してキューバのリズムなどをどんどん自分のドラミングに取り込んでいったことが大きいと思う。とは言えやっぱりめちゃめちゃタイトで正確なんだけどね。
リズムパターンは非常にユニークなパターンが多い。
普通の8ビートパターンは「Looking Up」くらいまではほとんど出てこなかったんではないだろうか。
ルーディメンタルなアプローチや両手を組み合わせた複雑なコンビネーションを駆使するパターンがとても多く、ロックばかりコピーしてきた自分には本当にやりがいがあった。
※この時点では滝本少年はまだスティーブ・ガッドという偉大なドラマーの存在を知らず、神保さんがガッドの影響を大いに受けていることも知らなかったため、あらゆるパターンは全て神保さんのオリジナルだと思い込んでいた。
※カシオペアは作曲者がアレンジまでやるというルールがあったらしいので野呂さんが考え出したパターンを神保さんが生ドラムに置き換えたりした部分もあったかも知れない。
ちなみにカシオペアを聴くまではライドシンバルを叩きながら、ハイハットを4分や8分音符で踏むなんてことは知らなかった。しかもその裏拍でハイハットのオープンを入れるなんてことは考えも及ばなかった。
だから初めてカシオペアを聴いた時はライドシンバルが鳴っているのに、なんでハイハットのオープンの音が聞こえるのか不思議に思ったものである。今だと笑ってしまうんだけど、当時はマジで「ドラムでそんなことが出来るのか!」と感激したのを覚えている。
■プレイ分析 ~フレーズ編~
個人的に手クセがあるドラマーが好きである。手クセをコピーするとその人に近づけた気持ちになれる。
神保さんも手クセがたくさんあるドラマーで、またそれがいちいちカッコ良かったため、当時のドラム小僧達のハートをわしづかみにしたことは言うまでもない。
手クセフレーズはいくつもあるが代表的なものをご紹介。
・典型的な神保彰フレーズ(1)
16分音符を3つ割りフレーズのアタマをフラムにする。
「rL・R・L」という手順のヤツね。
※小文字の「r」は前打音(装飾音符)
これはデイヴ・ウェックルも東原力哉さんも使うが、彼らともまた質感が違う。神保さんのドラムクリニックを見に行った時にもこのフレーズを使ったフィルを解説してくれたので本人も好んで使っていると思われる。
・典型的な神保彰フレーズ(2)
「RLLRRL」という手順のフレーズ。
もうこれは完全に滝本の手クセになっているが、絶対におススメ。ドラムソロはこれだけでもキマッてしまうという魔法のようなフレーズである。
※このフレーズを世に知らしめたオリジナルはスティーブ・ガッドだが、彼はこのフレーズだけでソロを押し切ってしまうという力技を時々やる。
このフレーズを6連符でやるもよし、16分音符の6つ割りフレーズで使うもよし、一つ打ち部分をシンバルにしたり、タムにしたりもOKだし、フィルでも使えるし、ソロでも使えるし、本当に応用が効く便利なフレーズだ。
また手順違いの「RLRRLL」も同様に使い勝手の良いフレーズなので一緒に出来るようにしておこう。
なお、叩く際は二つ打ちの部分は音量を抑えて、一つ打ちの部分にアクセントを付けてメリハリのあるプレイを心掛けること。
どんなジャンルのドラマーであれ、絶対に覚えておいて欲しいフレーズである。
■プレイ分析 ~ソロ編(左足クラーベ)~
ソロについてもあれこれ書きたいが、フレーズ編と重なる部分があるので一点だけ「左足クラーベ」について。
左足クラーベとは左足でクラーベというラテンのリズムを刻みながら、残りの右手、右足、左手でソロを取る奏法。
※クラーベについての詳しい解説はネットで調べて。
クラーベはハイハットのペダルの左側にペダルとウッドブロック(素材は木ではないけど)をセットしてペダルを踏むことで鳴らす。
なおペダルは足の裏全体で踏むのではなく、ハイハットのペダルに足の裏の前の方を残しながら、カカト側でクラーベを鳴らすことが多い。
やってみたら分かるが左足でクラーベのパターンを踏みながらソロを取るなんて、常人にはまともに出来るもんじゃない。4分音符でハイハット踏みながらソロを取るだけでも四苦八苦する人が多いんだから、左足クラーベなんて相当厳しい訓練を積まないと出来ない芸当である。
※キューバあたりに行けば小学生くらいのドラマーがやっていたりするんだけど、まぁ彼らは毎日やってるわけだからね。
こういったチャレンジを常にやっているところが神保さんの魅力。
■プレイ分析 ~ワンマンオーケストラ~
これは生ドラムと電子ドラムを駆使し、シーケンサーなどを使わず、生演奏だけで一曲をフルアンサンブルで演奏してしまうドラムスタイルのことで、世界広しと言えども神保さんのレベルでこれが出来る人は他に見たことがない。
ドラムの上手い人間は死ぬほどいるし、手足がバラバラに動く人間もいるので、物理的にはやろうと思えばできるだろう。だがワンマンオーケストラは神保さんにしか出来ない。なぜならドラムを叩く能力だけでは成立しないからだ。
曲を選定し、曲をアレンジし、曲のメロディ、ハーモニー、リズムをどのように生ドラムと電子ドラムに振り分けてどういった手順で演奏するかを考え、しかもそれが非常に高いレベルで融合していなければならない…
神保さんはドラマーとしても超一流だが作曲家、編曲家としても素晴らしい実績がある。だからこそワンマンオーケストラを成立させることが出来るわけで、こればっかりは他のどんな凄腕ドラマーにもマネ出来ないのだ。
それにあまりにも神保さんのインパクトが凄すぎて仮に誰かがこういったことにチャレンジしても「ああ、神保のマネだね」と言われて終わりである。
■最後に
神保さんは難しいことをやっても、とてもタイトで音が拾いやすくコピーがしやすかったのと、一つ手クセを覚えるとそれを応用して他のフレーズに活かすことが出来、自分が飛躍的に向上していくことが実感出来たので夢中になった部分が大きい。
自分がテクニカルな方面に興味を抱き、そっちの道へ進もうと決意させてくれたのは間違いなく神保さんの存在があったから。神保さんのエッセンスは確実に今も自分の中に息づいている。
自分にとっては恩人とも呼べるくらい重要なドラマー。神保さん無くして今の自分は無かった。